【Review】Techivation「AI-Impactor」レビュー(AIアタックエンハンサープラグイン・AIアルゴリズムに関する考察・評価・セール情報)

【Review】Techivation「AI-Impactor」レビュー(AIアタックエンハンサープラグイン・AIアルゴリズムに関する考察・評価・セール情報)

製品の一次情報


AI-Impactor は、機械学習を使用してあらゆるサウンドを際立たせ、ミックスを簡単にカットするインテリジェントなアタック エンハンサーです。音声を分析して、最大の効果をもたらす攻撃を形成します。

Techivation プラグインの互換性
macOSおよびWindowsと互換性があります。
VST、VST3、AU、AAX として利用可能です。 - Appleシリコンチップ
クリエイターのためのスマートなソリューション


あらゆる音の存在感を高めます。

いくつかの内部効果と組み合わせた機械学習
AI-Impactor には、サウンドのトランジェントを分離して複数のプロセッサーに適用するトランジェント検出器など、いくつかの強力な内部パラメーターが装備されています。

ダイナミック ソフト クリッパー、エンベロープ シェイパー、先読み機能を備えたスマート ダイナミック サチュレーション、およびトーン バランスを強化するリニア フェーズ チルト EQ を備えています。

その他詳しい製品情報は公式サイトも確認してみてください。無料試用もできます。

機能と使い方

AI-ImpactorはTechivationのAIシリーズの3つ目の製品。トランジェントを検出して、アタックを際立たせるAIプラグインです。
AIシリーズに共通するのはAIによるオーディオソースの分析→カスタマイズされたアルゴリズムのプロファイルの自動決定→エフェクトのかかり具合の調整という基本的にはオーディオ処理はAIに一任してエフェクトをどれくらいかけるかだけを調整すればよいという設計になっています。
例えば下記UIではTight, Deepというパラメータが決定されているように複数のパラメータの中からオーディオに適したパラメータが自動的に決定されて適用されるようになっているのが特徴です。(複数のパラメータが存在するようでそれぞれのパラメータの動きは不明。色々比較すればわかるのでしょうが、わかったところで特に意味がある訳でもなく気が遠くなる作業ですのでもちろん割愛します。)真ん中のImpactスライダーはシグナルに適用されるアタック・シェイピングの強さを決定し、値が大きいほど、より顕著でインパクトのあるアタックになります。分析したオーディオに応じて、ピークレベルの上昇を制限しながら、アタックのエンベロープ、トーン、ハーモニックの内容をインテリジェントにシェイプするということですが、具体的にどのような処理を行っているのか全てのソースで確認することはもちろんできませんので基本的にはブラックボックスの中で行われるということになります。ただし、いくつかのサンプルで解析してみた結果、基本的にはおおまかな動きとしてはアタックのエンベロープをAIにより検出して(どの程度検出するかもAIにより決定されます)それに対して追加のオーディオ信号が付与されるという仕組みになっているようです。

DiffはTechivation製品ではおなじみですが、元の信号とエフェクトがかかった信号の差分を聞くことができる機能で実際どれくらいかかっているのか何が起きているのか確認する際に助けになる機能でもあり、この手の自動化されたプラグインでは非常に重宝します。最近のこのメーカーのプラグインには基本的にどのプラグインにもこの機能が付いているようで筆者がこのメーカー製品の最も評価している機能の一つ。

Techivation「AI-Impactor」の内部アルゴリズムに関する考察

さて、筆者もいくつかのオーディオソースでこのプラグインのアルゴリズムをざっくりと測定してみましたが、その中でいくつかのサンプルをここで提示してみたいと思います。サンプルの数はもちろん増やすことで考察の精度が上げる余地があり、また異なるものが見えてくるかもしれないことはあるかもしれませんがあくまで参考までに。できるだけ客観的なデータとセットで論じて議論の余地がある箇所があったとしてもクリティカルかつ建設的に読めるように配慮したつもりです。
結論からいうならば複数のパラメータが複合的に動いているため当然すべての動きを物理的な挙動レベルで把握することは困難ですが、測定の結果一定の傾向のようなものは少しつかむことが出来ました。ここで記載した内容だけでなく言語化が難しい気づきも含めると思った以上に収穫がありました。
まずアコースティックピアノ(Pianoteq 8 Grand Steinway Model D New Yorkグランド)を例に通してしてみた結果、Open 80%、Airy 20%というプロファイルの結果が出てきました。Impact 100%でDiff信号(赤)と処理後の信号(青)を比較してみると、色々と見えてくるものがあります。以下のような動きがみられました。まずトランジェント検出はこのプラグインの概要を理解する上で重要かもしれません。
トランジェントの検出に関するアルゴリズムも実は一筋縄ではいかず、必ずしも入力量に比例してエフェクト多くかかるとも言えないのが興味深い。ただし入力信号をアタックとみるかサスティンとしてみるかというところに関しては入力信号のレベルの変動の起伏に応じてある程度一貫性あるように見えます。(音響的観点ではなく音楽理論的な見地でみるならばピアノの場合細かなフレーズパッセージでは最初のフレーズアクセントにかかるようです。)これはある意味で音楽的ということもできます。


次にスペクトラムを確認してみると、おおよそ元の入力信号と似たようなスペクトラムシェイプを描くことが確認できますが、完全に一致でもありません。これはオーディオソースとそれに基づくプロファイル違いにもよるかもしれませんが、低音と高音のスペクトルの違いが顕著で、低音は短いアタックの時はさほど違いがありませんが、長音の際には原音に対してゆったりと形状が変化し、高音よりも原音のスペクトラムの形状の追従が遅れて(というよりことなる動きですね)原音と大きな違いみられます。サステインに含まれている倍音成分が干渉しているのでしょうか。これがひょっとしたら後述の処理による低音の豊かな響きにつながっている可能性もあります。高音では低音でも長音でもさほど違いはなく、高音は素早く追従し、エフェクト信号が原音のスペクトルの形状と比較的類似したかたちで付与されることが分かります。音で聞くと鋭くカツンとかかるというところでしょうか。

長音を低音と高音で比較しながらそれぞれ鳴らしてみるとその違いはよくわかります。Diff信号のダイナミクスがどちらも長音の場合、減衰時に原音と異なり傾きが途中で変化して緩やかになるのですが、低音がより顕著にみられるわけです。下のアナライザーを見る限りではこの形状と処理信号の大きさは原音のラウドネスの大小と比例するわけではないようですね。



耳で聞いてもその傾向はわかりますが、耳で聞くと原音との違いとしては高音と低音(これは特に顕著)の干渉がより感じられます。
上述のようにアナライザー確認すると長音の場合減衰時に原音とのスペクトラムの形状の違いがよりわかりやすくみられます。


最後に原音とエフェクト処理後の信号の違い。単発の鋭いアタックに対してトランジェント検出の反応(と処理量も?)が大きいのはおおよそ一般的な事象として確認できるかと思います。

フレーズの中でのラウドネスの変化を見ていくとこのようになっています。



評価


実質ワンノブプラグインということもできるかもしれないAIシリーズ。いくつかのソースで確認してみた一般的な傾向としては原音に対して自然な処理が行われて、アタックが原音の聴覚上の特性をさほど大きく変えることのない処理で強調することができるといったプラグインだと思います。アコースティックピアノを例にすると非常にわかりやすいのですが、処理をすると所謂演奏における「硬い音」になるという表現が分かりやすいかと思います。これが割と重要なポイントでこの音が良い場面と好ましくない場面がある訳ですね。
どちらかというと切れの良い音が硬質になるといいますか。低音は割と硬質にはなりにくくアコースティックの場合は所謂深みのある音になる傾向が強いように感じます。これは上述のスペクトラムの分析の傾向と一致する現象かと思います。アコースティックギターなど他の楽器でもそのような傾向がみられましたので基本的に異なるソースでもその傾向はある程度一貫しているかと思います。
またエンベロープの検出の傾向から推測するとおそらくパーカッシブなサウンドに対してより効果を発揮するプラグインでプラグインの設計上、想定できるかもしれませんがパッドサウンドや細かなテクスチュアだとおとなしめに作動すると思います。
以上の考察からもわかるようにこのプラグインは割と処理に一貫した傾向が感じられて使う場面によっては最適とは限らないというケースは大いにみられると思います。ただし、アタックシェーピングにさほど慣れていない方が不要な処理をしてしまうという大きなエラーが確率的に比較するならばほとんど生じないというのもまた真なところもあり、通常では複数の過程を踏んで吟味するような操作が一つのプラグインで瞬時に良い結果が得られるというのも事実だと思います。
ここで取り上げた考察だけでもわかる通り一般的な楽器の音響特性とアルゴリズムがうまくマッチしており、非常によく設計されたプラグインです。
ざっくりとこのプラグインを評価するならばエンジニアが1つの方向性に沿った処理をしてくれるプラグインで不要という人もいるかもしれませんが、手札の一つとして持っていても役立つプラグインだと考えられます。とりわけ動的な処理を行うため(あたりまえですが)代替えも難しいプラグインです。あくまでエンジニアリングの選択肢の一つというプラグインではありますが、制作がより重視されるアーティスト向けのプラグインということもできまさに時代を反映したようなプラグインだと思います。

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