【Review】Techivation「T-De-Esser Pro」レビュー(不要なアーティファクトが発生しないディエッサープラグイン・使い方)
ディエッサーは使用頻度が高いので、UIを眺めていて良さそうな気はしていましたが、実際どうなのかと気になってました。
製品情報
音楽業界のプロが愛用するディエッサー・プラグイン
限界を超えて、クリーンでスムーズ、アーチファクトのない明るいサウンドを作り出します。シビランスをコントロールし、T-De-Esser Proが全く新しい方法で、ハーシュネスや舌足らずな音を排除します。このパワフルなツールで、不要なアーチファクトを忘れてしまいましょう。
時間と労力を節約し、より優れたサウンドを生み出す
T-De-Esser Proは、T-De-Esserのミニマルで使いやすいインターフェイスを踏襲しつつ、より強力な機能を備えています。デエッサーは通常、オーディオ修復ツールとして作られていますが、それはT-De-Esser Proが提供するいくつかのオプションのひとつに過ぎません。
どんな音にも対応する、超精密かつ多機能なツール
T-De-Esser Proの汎用性の高さは、DAWチャンネルで多くのプラグインを使用することを避けるのに役立ちます。例えば、トラックにハイカットフィルターを適用する場合、チェーンにEQを挿入する必要はなく、T-De-Esser Proの内蔵EQを使用することができ、さらにサチュレーションとクリッピングでオーディオを暖めることもできます。これにより、CPUパワーと時間を大幅に節約することができます。
高音質化のために必要な機能
処理ノブを回すとスムージング操作が始まり、「強度」と「シャープネス」ノブで好みに応じてどの程度強くするかを設定できます。T-De-Esser Proのカスタム周波数機能では、周波数帯域を1kHzから20kHzまで設定することができます。ミックスのディテールにこだわればこだわるほど、他のミックスとは一線を画すことができます。それこそが、カスタム周波数レンジセクションを作った理由です。T-De-Esser Proに搭載された魔法のようなルックアヘッドボタンは、バターのように滑らかに動作するので、歪みのないクリーンなオーディオを維持しながら、より速い「アタック」設定でより正確に行うことができます。T-De-Esser Proの強力なオーバーサンプリング(最大16倍)を使用し、重い処理によるエイリアシング・アーティファクトを回避することができます。
Techivationプラグインの互換性
- macOSとWindowsと互換性があります。
- VST、VST3、AU、AAXとして利用可能。
引用元:T-De-Esser Pro
ディエッサーとは
ディエッサーについて簡単に説明を加えておきます。「De」「Esser」でEsの音を消すといった意味です。頻繁に使用されるのが、ボーカルやナレーション処理。音声におけるサ行「サシスセソ」の音が空気が歯に当たる時に発生する歯擦音(しさつおん、シビランス)を軽減するために使用されることが多いです。「ます。」の「す」が耳に刺さるような高音で収録されるケースなどです。マイクで録音した時に実際の音以上に歯擦音が強く録られてしまうことが多く、数KHz程度の高い周波数成分のみに限定して、マルチバンドコンプレッサーのように抑えていく仕組みのものが多いです。ディエッサーは単にボーカルやナレーションなどの声を抑えるためだけのものではなく、実は楽器における同様の高音域の耳障りの音を軽減することによって、聴きやすくすることにも使われています。(勘違いしやすいですが、声の処理のみのエフェクトプラグインではないので注意。)管楽器などでも歯擦音と似たような高音域の耳障りな音を聴いたことがあるという人は多いかと思います。
無料プラグイン Techivation「T-De-Esser Plus」と「T-De-Esser Pro」の機能の違い
無料プラグイン Techivation「T-De-Esser Plus」と「T-De-Esser Pro」の機能の違いについて比較してみます。
Techivationは「T-De-Esser Plus」というディエッサープラグインも無料で配布しています。
実際はT-De-Esser ProとT-De-Esser Plusは同一のプラグインとして用意されており、後者は機能制限版になります。(そのため、初回インサートするとT-De-Esser ProもとT-De-Esser Plusとして立ち上がり、アクティベーションをすることで機能制限のロックが解除されます。)
機能の違いは画面を見るとほとんどが分かります。まず、T-De-Esser ProにはT-De-Esser Plusがディエッサーのターゲットとする周波数帯域がLow-hi、Mid-hi、High、Hi-endというあらかじめ設定された周波数帯域の設定しかできないのに対し(画面上ではHighのプリセットに該当する周波数帯域がFrequency rangeに表示されています)、Proバージョンでは任意の周波数帯域を設定してターゲットとすることができます。これは、サチュレーションやMS処理、ハイカット等の機能が追加されます。また、アタック、リリースコントロールができるのもポイント。プリセットも機能が拡張されたことによって対応できるものが増えた分追加のプリセットが用意されています。
T-De-Esser Plusであっても無料とはおもえないくらいには充実したディエッサーの機能が搭載されているプラグインです。(アタックリリースが調整できないのがやや痛いところですが、コントロールできない有料のディエッサープラグインもあることですし、単なるお試しではなくある程度使えます。)一方で、Proバージョンには音質といった点で、周波数帯域をより厳密にターゲティングし、余分な周波数帯域のリダクションを抑え、Plusでは再現できないオーバーサンプリング機能やコンプレッションの微調整や後述するコンプのかかる精度を正確にするLookahead機能が付いているため、音の良さを追求するためにはやはりProバージョンは欠かせないと思います。
無料製品のダウンロードについては配布元も参考にしてみてください。
機能紹介
ここからはTechivation「T-De-Esser Pro」の各機能と想定されるユースケースについて考察していきます。
なお筆者が導入前までに業務内で使用頻度の高かったディエッサーはRX Desserです。(小回りが利いて便利というのもあります。)お読みの方でお使いの方はそれも念頭に読んでいただけるとよりバイアスがかからないかと思います。
真ん中の大きなノブProcessingノブは、圧縮がトリガーされる前にDe-Esser Proを通過できるレベルの大きさを決定します。スレッショルドをイメージするとよいかもしれません。Processingノブをダブルクリックすると、初期設定値に戻ります。また、ノブの数字をダブルクリックすると、好みの値を入力することができます。
Intensity
T-De-Esser Proの "Intensity "は、信号がスレッショルドレベルを通過する際に、De-Esser Proがどの程度ゲインを下げるかを決定します。例えば、設定が 4:1 の場合、信号がスレッショルドを 4 dB 上回ると、ディエッサーは 1 dBとなります。レシオですね。
シャープネスは、ディエッサーを通過するオーディオ信号の非圧縮状態と圧縮状態の間のトランジションを設定します。低いシャープネスは高いシャープネスよりもよりスムーズで緩やかな圧縮になります。こちらも同様にダブルクリックでデフォルト値にしたり、数字入力が可能。
アタックリリースはコンプレッサーと同様です。次のLookahead機能によりより精度を高めることが可能になります。
周波数帯域はLow-hi、Mid-hi、High、Hi-endというデフォルトのプリセットボタンを押すとFrequency Rangeのスライダーの範囲がそれぞれの設定で反映されます。自分で範囲を設定することもできます。1kHzから20kHzと高音域に対応しています。(参考までにM-Clarityは300Hz~3kHz)
Lookahead機能について。
ルックアヘッド機能は、ディエッサーが処理される前の入力信号が処理される前に、その信号をプラグインが監視し、「見る」ことができますようになります。具体的にいうならばLookahead オプションをオンにすると、アタックがより正確に動作するようになり、より自然なサウンドになります。 先読み機能で、ディエッサーが処理される前の入力信号を "見る "ことで、一過性の情報をうまく処理し、アタックをよりスムーズにする機能です。オンにするとレイテンシーが増加するため、トラッキング/レコーディング中の使用には不向きになります。
耳で聴いてみた限りだとLookahead機能がオンになっている時、よく聞くとコンプレッション時にさらに圧縮の引っかかりがなくなり、滑らかになっているのが分かります。(もともとが滑らかなので、よく聞かないと分かりにくいですが、違いははっきりと分かります。)
また、オーバーサンプリングはなんと16倍まで対応しています。
また、サチュレーションも用意されています。これはサウンドに色を加えるための機能ですが、デフォルトで100%かけるとかなり歪むので注意。使うとしても少なめですね。
T-De-Esser Proのサチュレーション機能は、音にユニークな色と質感を加えます。 サチュレーション機能は、音に独特の色と質感を与え、場合によってはディエッサーがより滑らかな音を作るのに役立ちます。 よりスムーズなサウンドを作ることができます。また、サウンドに新しいキャラクターを作り出すこともできます、 ミックス "や "ハイカット "などの他の機能と併用すると 「ミックス "や "ハイカット "などの他の機能と併用することで、サウンドに新たな個性を生み出すことができます。
むしろ、右ボタンに用意されたサチュレーション "フィルター"と併用して使うことが想定されているようです。これは上部のディエッサーの干渉する周波数帯域に限定してサチュレーションを加えることができるという機能。例えば、声の場合はディエッサーによってリダクションされたであろう特定の高音域にのみサチュレーションを加えることができます。これはもまた、使い過ぎに気を付けたいところですが、高音域をなじませて ミックスに溶け込ませるために用意されているものであり、非常に強力な機能といえます。
Diffではターゲットの周波数帯域のゲインリダクションされた成分のみを聴けます。これが追い込みにはとても良いですね。Filterは指定した周波数帯域のみを聴く機能。筆者は最終的にこれを交互に使用してベストの処理を追いこんでいます。
ハイカットは通常のハイカットです。
プリセットにはディエッサーとはいうものの性別に応じた声のプリセットでだけでなく、ドラムからギターまで、楽器などの様々なプリセットが用意されています。
まとめ・評価
周波数帯域やコンプレッションのコントロールが充実しており、パラメータで追い込むことができるのがポイント、とにかくコントロールが多いので干渉する帯域の選択やコンプレッションの動作など思いのままにコントロールできるのがポイント。
また、機能が多いので追い込みに沼にはまりそうなプラグインでもあります。迷走したときのパラメータごとのデフォルトリセットボタンが少し役立つ時があります。また、帯域事の範囲のプリセットが4つ用意されているのでまずはそこから帯域をさがすことによって、大きなエラーが回避できるのも良いですね。
非常に滑らかでただし、気を付けたいのは圧の強いコンプレッションがかかることなく、本当に違和感なくリダクションされるので、例えば音声の場合本来必要なサ行の成分を違和感なく余分にとってしまうという怖さもあります。(機能が優れている故ともいえますが、気が付いたら余分に持ってかれているといったように違和感がないので、他のプラグイン以上にバイパスとの比較がマストだと思います。)リダクションメーターしか表示されないのでメーターになれている人はむしろわかりやすいです。私も使いやすいと思います。)
注意したいのは、非常に自然に違和感のないリダクションが行えますが、それは適切な設定を行った場合に限ります。設定を誤ると普通に違和感のあるサウンドになります。(同メーカー製品のM-Clarity等以上に音質が大きく作用します。)機能が多いだけにシンプルなディエッサー以上に誤っていじりすぎると音が破綻する危険があります。ディエッサーやマルチバンドコンプレッサーになじみのある人は非常に使いやすいと思います。全く調整なしで誰でも良い処理ができるプラグインではないので注意。一応様々な楽器のプリセットもありますが、スタートポイントとして用意されているので参考になりますが、最低限の設定が自分でできないと難しいかもしれません。
そのため、ある程度耳で判断できて(ゼロでなければ使っているうちにわかってくるかもしれませんが)、音のクオリティチェックと確認ができる人向けのプラグインにはなります。筆者の印象としてはユースケースやジャンル、シチュエーションによってはややオーバースペックでそこまで追い込まなくても良いのではと思うくらいにはまさに職人のように微調整ができます。一方で、繊細なボーカル等をはじめとした、理想のサウンドに追い込みたい人にとってはその追い込みできる精度に感動するはずです。