【Review】Techivation「M-Clarity 2」レビュー(AIダイナミックレゾナンスサプレッサープラグイン・新機能について・M-ClarityやAI-Clarityとの比較・評価・セール情報)



Techivation「M-Clarity」レビュー(ダイナミックレゾナンスサプレッサープラグイン)


メーカー情報



M-Clarity 2 は、自然な透明感で濁り、箱音、耳障りさを取り除くダイナミックな共鳴抑制器です。高度なスペクトル処理、適応型周波数範囲セレクター、AI 搭載のミックス アシスタントにより、クリーンで正確なミックスがこれまで以上に簡単に実現できます。

Techivation プラグインの互換性
macOS および Windows と互換性があります。
VST、VST3、AU、AAX として利用できます。 - Apple Silicon Chips
クリエイター向けのスマート ソリューション


サウンドを非常にクリアにします

当社独自のスペクトル シェーピング テクノロジーを体験してください
バランスの取れたクリアなサウンドを実現することは、望ましくない濁りや箱音のために難しいことがよくあります。M-Clarity 2 の高度なスペクトル シェーピング テクノロジーを使用すると、オーディオの重要な要素を維持しながら、これらの問題を簡単に取り除くことができます。

M-Clarity 2 は周波数スペクトルを動的に処理し、中音域と低音域の不要な共鳴をターゲットにして削減することで、サウンドのコア特性を失うことなく、よりクリアでバランスの取れたサウンドを実現します。

適応型周波数範囲検出: 超高精度
M-Clarity 2 は、適応型周波数範囲セレクターによって基準を高めています。オーディオを継続的に分析して、プラグインの注意が最も必要な場所を特定し、処理範囲を動的に調整して不要な共鳴をターゲットにします。アダプティブ セレクターにより、処理範囲を無限に微調整する必要なく優れた結果が得られ、M-Clarity 2 は最も複雑な共鳴も正確にターゲットにできるため、プロフェッショナルや完璧主義者にとって欠かせないツールとなります。


AI ミックス アシスタント機能との統合
M-Clarity 2 の AI 搭載ミックス アシスタント機能は、オーディオを分析し、カスタマイズされたパラメータの提案を提供します。AI モデルは、さまざまなサウンド タイプに最適な設定を正確に特定しながら、好みに応じて調整できる柔軟性も提供します。このオプション機能は、ミキシングおよびマスタリング プロセス中に大幅な時間節約を実現し、さまざまなサウンドで最高の結果を達成するための役立つガイドとして機能します。



引用元:M-Clarity 2 (公式サイト)


機能紹介


はじめに。ダイナミックレゾナンスサプレッサーとはミックスに不要となる余分なレゾナンスを抑制できるプラグイン。レゾナンスとは共振・共鳴のことです。ギターにおける共鳴板やピアノにおけるボディや響板で音が共鳴して豊かな響きが生まれるわけですが、楽器のコンディション等の要因により時としてやや耳障りな不要な響きになることもあります。つまり、周波数における不用意に出てしまったレゾナンスピークを抑えてあげるわけですね。

画像はWikimedia Commonsより引用

Techivation「M-Clarity 2」は選択した周波数帯域やしきい値に応じて必要な箇所だけレゾナンスを抑制します。



Techivation「M-Clarity 2」のパラメータはさほど多いわけではありませんが、少し予備知識や説明が必要なパラメータが多い印象です。画面上部のアタック、リリースはサプレッサーが検知してから作動するまでの時間と、抑制を終えるまでの時間を設定することができます。コンプレッサーでイメージするとわかりやすいかと思います。



新機能について


バージョン2になって大きな機能追加や改善が行われました。公式から公開されている情報としては以下の5点に要約されます。

  • 改善されたダイナミクス: M-Clarity 2のダイナミクス・セクションは一から書き直され、クリーンで反応の良いAttackとReleaseコントロールでサウンドを形作ることができます。
  • さらなるクラリティ: M-Clarity 2は、スペクトル・シェーピング・エンジンの改良版を搭載し、歪みやアーチファクトのない、よりクリーンなサウンドを実現します。
  • アダプティブ・プロセッシング・レンジ: M-Clarity 2は継続的にオーディオを分析し、箱鳴り、濁り、ハーシュネスをターゲットに処理周波数帯域を自動的に調整します。
  • インテリジェント・ミックス・アシスタント: M-Clarity 2の新しいミックス・アシスタントは、オーディオを分析し、トラックに適した設定を提案します。
  • より優しいソフト・モード: M-Clarity 2の 「ソフト 」プロセッシング・モードは、「ハード 」モードに比べ、エフェクトの強さを落とすことなく、より優しくなりました。
  • プラグインが何をしているかを確認: M-Clarity 2がオーディオに対して行う正確なスペクトル調整が表示されるので、プラグインが何をしているのか、常にコントロールすることができます。
最初に目が行き届くのはアシスタント機能かもしれません。これはオーディオを解析し(操作としてはiZotopeのアシスタント機能などをイメージするとわかりやすいかと思います)、プラグインのパラメータをAIにより最適な値に自動設定してくれるというもの。
分析に3.5秒かかります。Ozoneと比較すると大変短い。音がいろいろ鳴っていてそれに伴いレゾナンス等が最も気になる箇所を分析させます。
分析中の画面。どうでも良いことですが、分析中パラメータのスライダーがぐるんぐるんと動き回るのはテンション上がります。(?)


レゾナンスサプレッサーというと基本的にはレゾナンスと検知した箇所を抑制するわけですが、どれくらいの速度でスペクトラルコンプレッションが行われるべきかなどやや悩むこともあるかもしれません。その際にスタートポイントとして全てのパラメータのひな型を提示してくれるわけですね。筆者はバージョン1の時から既に使用していますが(非常に有用でしたので商用のミキシング作業内でも使用しています。)、他のレゾナンスサプレッサーと比較して、オーディオの著しい劣化を引き起こすことも少ないので(これはAI-Clarityの記事内でアルゴリズムについて考察しています。)さほど難しさを感じたわけではありませんが、diff機能でサプレッションの信号を確認できることもあり、追い込めるので結構吟味することもありました。このアシスタント機能は少なくともスタートポイントとしては悪くなく、そこからまあ設定を追い込んでしまうことは間違いないのですが、使いやすさという点でおおきなサポートとなることは間違いないと思います。とりわけあまりレゾナンスサプレッサーに慣れていない方にとってはありがたい機能だと思います。



M-Clarityとの違いについて

また、Attack, Releaseのアルゴリズムが一新されたとのこと。スペクトラルサプレッションの開始を遅らせることでアタック感をしっかりとセーブするわけですが、M-ClarityとM-Clarity 2はこちらで設定をそろえることのできるパラメータを揃えて同条件で確認するとやはり音の違いが明確にわかります。(明確というのは人それぞれですのでどれくらい違うかは感じ方に幅があると思いますが、少なくとも筆者はすぐに聞き分けることができました。)M-Clarity 2の方が音も曇りが少なく、非常にくっきりと音が維持された状態でサプレッションが行われます。サプレッションの滑らかさを変えるSoft HardのモードでSoftのアルゴリズムが変更されたということでこちらも比較してみるとM-Clarity 2ではSoftがより滑らかなサウンドなるように作動するようになりました。これに関しては割と雰囲気が一新されているので好みの問題がかかわるのではないかとは思いますが、バージョン2のほうが新しいバージョンはThe滑らかなだけでなく原音により近いと思います。また、アダプティブ・プロセッシング・レンジという動的にスペクトルの中のレゾナンス成分を検出してサプレッションを行う機能が追加されました。2では周波数範囲のスライダーにレゾナンスなど処理される周波数成分の帯域が青く光ります。設定画面でこのアダプティブ機能をOFFにすることができ、バージョン1のようにスペクトルの特定の部分を帯域を指定して手動でピンポイントに指定することもできます。
また、バージョン1のデフォルト設定をバージョン2で再現してみるとEQカーブが大分異なることも確認できます。赤がバージョン2です。バージョン1のカーブを確認してみると傾斜に段差がみられることがわかりますね。これはSuppressionを操作する際により大きな挙動の違いとして確認でき、段差の下の部分がすぼまるような動きで変化します。バージョン2は滑らかなカーブを保ちます。

上記同条件でバージョン1にはないアダプティブ機能をONに切り替えて使用したデータです。テスト信号に対し集中的にターゲティングすることがわかります。(そして動的に処理が行われます。)


ソフトモードの比較検証です。アダプティブ機能はOFFで同条件。赤色のバージョン2はやはり傾斜に差がみられるというのはいうまでもないでしょう。


AI-Clarityとの違いについて


アシスタント機能ということで比較的最近リリースされたAI-Clarityとの違いが気になる方もいることでしょう。筆者も気になるところでしたのでいくつかのサンプルとテスト信号でチェックしてみたところ全く別物だと考えられます。そのまま移植ではない、ということです。AI-Clarityが紫色の線。かくついているところが特徴です。M-Clarity2は非常に滑らかな曲線を描きます。複数のサンプルで検証してみたところおおよそこの特徴がどのサンプルにもみられることとなりました。耳で確認してみると、EQカーブと同様にM-Clarity 2の方が非常に音質の曇りが少ないことが感じられます。そもそものアルゴリズムの差というところも大きいでしょう。アコースティック系なら録音素材そのものをできるだけ重視したい場合筆者ならばM-Clarity 2を使うと思います。




バージョン2の評価

M-Clarityというとdiff機能が非常に有能で処理すべき周波数を追い込んで、正確に狙い撃ちするといったマニュアル作業として非常に効率的に設計されたプラグインだと認識しておりました。バージョン2になってもそれは健在ですが、アシスタントとアダプティブ機能によりプラグインのアルゴリズムにお任せするオプションが追加された点が最も大きな変化だと思います。特にアシスタント機能は多くのパラメータをすべて一括で提案してくれるので(単一のパラメータだけ選択できないということでもあります。)どこから設定をいじるべきか悩みがちな方にとっては助かるかもしれません。設計上(他のレゾナンスサプレッサーと比べると)音が破綻しにくいというのもありますが。
アタックなど音質に直接かかわる重要なパラメータのアルゴリズムが変更されたのはやはり見逃せない点で音質が(それぞれを並べて確認すると)明らかに異なるため別物といえるでしょう。バージョン1も完成度が高いことは確かではありますが、上記アルゴリズムの変更と、アシスタント機能によるアップデートが有意なものに感じられる方はアップデートしておくとよいと思いますね。特にアダプティブ機能はバージョン1ではどう使っても代替えできない処理であることは間違いありません。


M-Clarity 2 (公式サイト)



以下バージョン1と概略的に共通する内容について続きます。

その他パラメータの詳細です。


Suppressionパラメータは、オーディオの中の特定の周波数成分を減らす量をコントロールします。オーディオ信号内の特定の周波数成分を制御します。
周波数帯域は帯状に表示されており、抑制する周波数帯域のレンジ幅を選択するというシンプルな設計。後述のFilter機能により、その周波数のみを聴くこともできます。

M-Clarityのモードは2種類用意されています。「Soft」「Hard」モードはプラグインが特定の周波数成分をどの程度積極的に動作するか、あるいは抑制するか選ぶ機能。ハードモードでは、プラグインはスペクトルを平滑化することなく、検出した共振を正確に除去します。ソフト モードでは、スペクトルの平滑化が適用されるため、(スペクトルグラムを確認したところ周りの周波数帯域に干渉して均すような処理かと思われます)処理はより穏やかになりますが、抑制する度合いの精度は低くなります。

Intensity


Intensityパラメータは、周波数での共振の幅に関係するパラメータ。プラグインが小さな狭い周波数の共振をを検知するのか、より広い帯域の共振を検知するのかを決定します。どのタイプの共振をプラグインが抑制するのかをコントロールするということです。低強度では全体の輪郭に影響を与えずに細かいスペクトルのピークを抑制し、高強度ではより大きく広帯域な共鳴を探します。そのため、値を上げるとより大きな音の変化が生じリダクションが行われます。

Focus

Focusパラメータは反応するレゾナンスの強度のしきいを設定できます。Focusを高く設定すると最も強い(音量が大きい)共鳴のみにに焦点を当て、集中的に処理し、弱いレゾナンスには影響を与えません。低い設定では、すべてのレゾナントピーク は等しく処理されます。つまり、値を高く設定すると、最も強い(音量が大きい)共鳴に対してのみ作動します。弱いレゾナンスには影響を与えません。低い設定では、すべてのレゾナントピーク は等しく処理されます。

Diff & Filter

ディフ&フィルター機能がなかなか便利。M-Clarityの'Diff'ボタンは所謂デルタリスニングのことで、元のオーディオ信号と処理後のオーディオ信号の差を聴くことができる機能です。
Filterは、Frequency rangeスライダーで選択した周波数帯域だけを聴くことができます。Diffは、オーディオ信号に対する処理により減衰される成分を聴くことができます。


また、多くのプラグインに搭載されているA/B比較モードや、楽器などに応じたプリセットもしっかり用意されています。



v.1.1.0の新機能について

追記:
先日v.1.1.0へのメジャーアップデートの告知が発表されました。


大きな変更点としては、MS(LR処理)のコントロール機能。



新機能
  • [新機能追加] Mid/Side処理モードと、左右またはMid/Sideステレオチャンネル間の処理バランスを調整するためのコントロール
  • [新機能追加] UIスケールオプション(90%と110%)
  • マイナーなUIの改善: ボタンのホバー状態の追加、登録とアカウント管理ウィンドウの更新
  • パフォーマンスの改善
MS(LR処理)のコントロール機能の機能の追加について詳しく論じていきましょう。


MS(LR処理)のスライダーコントロールは上記パラメータによるレゾナンスサプレッサーをLR、あるいはMSに偏って、あるいは限定して処理することができるという機能です。例えば、サイドの信号は問題ないが、Midのみ高域を抑えたいといったときに、これを使用することによって、必要のない余分なリダクションをせずに必要な部分だけピンポイントで処理をすることができます。違和感もなく処理ができるので地味ですが非常に優秀なアップデートともいえ、有用ですね。

評価


ダイナミックレゾナンスサプレッサープラグインというとoek sound「SOOTHE2」がリリースされていますが(Mastering The Mix「RESO」もありますね)、M-Clarityは非常にシンプルな設計ながらも音楽等のオーディオソースに対する適切な処理にあらかじめ最適化されており、リダクションした信号のみ、あるいたターゲットとなる帯域をリッスンできたりと非常に合理的に設計されているといえます。また、M-Clarityはレゾナンス処理のアルゴリズムがあらかじめ内蔵されており、複雑な処理をせずとも自然に軽減できるように設計されているので極端なエラーを引き起こすリスクもなく、良質な処理をすることが容易です。そのため、他のダイナミックレゾナンスサプレッサーとはほとんど別物といっても良く、十分に住み分けされているといえるでしょう。一見、プロフェッショナル仕様なイメージがありますが、ミックス処理にさほど自信がない人にとっても使いやすく十分恩恵を得られるプラグインです。操作は非常に手軽ですが、単なる時短系プラグインでなく、十分実践に登用できるほどの操作の幅と柔軟性がありますね。ミックスの被りによる濁りを改善する上でも、非常に繊細な処理ですが(極端なパラメータ設定をしない限りは音色自体は意識せずにぼーっと聞いていたら違いを聞き逃しそうな変化です)、明らかな明瞭さの違いと改善が感じられるそういったプラグイン。
また、M-Clarityは対象とする周波数帯域も簡単に選択できるのも良い。ターゲットとする帯域をスライダーで探しながら聞くといった動作が簡単にできるのが使いやすいところです。ビジュアライザーはありませんが、かかり具合を耳で確認できるのでさほどとっつきにくさは感じません。(これはむしろ業務上の使用の場合使いやすいと思いました。ただし、スペクトルアナライザー等の視覚化したものが欲しい人も確かにいるかもしれません。)また、きわめて自然なかかり方をするのでHard設定でかけたとしても、元の音源と比べてもほとんど音声的な違和感がなく、大きな音質劣化等の変化がみられません。(スペクトルアナライザーで分析したり、リダクション成分を聴いたりした限りだと確かにHardではSoftよりも多くのリダクションが行われていることは確かなのですが、不思議と大きな音痩せが感じられず、致命的な音質の違和感がありません。)ミックスのマスキングを解消する際にもEQでは余分なところまで削れてしまうところに使用してあげることで被りをすっきりさせることが容易であり、ミックスの濁りをナチュラルに解消するのに大変向いているといえます。EQだと上手くいかないケースでも、リダクションにより音の輪郭がぼやけ過ぎずにさりげなくすっきりさせることが容易なのがなかなか便利ですね。
リリース直後からすでにエンジニアの方々も注目し始めている様ですが、シンプルな見た目以上のポテンシャルがあり驚きました。
Smooth 2等と比べてもやや控えめな価格であることを考えてもエンジニアだけでなく音楽家等幅広い層の人にとってかなりの活躍が期待できるプラグインだと思います。

このメーカーは良心的に無料トライアル版も用意されているのでとりあえず試してみるのも良さそうですね。

セール情報

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