【Review】Sound Particles「SkyDust 3D」レビュー(世界初のイマーシブオーディオ対応のシンセサイザー)
イマーシブオーディオは非常に関心があるのでリリースされた時点で非常に大きな期待がありました。
メーカー情報
SkyDust3D は、3D オーディオを完全にサポートする仮想楽器です。ノートを演奏すると、即座に空間オーディオが得られます。ポリフォニック シンセサイザーと Sound Particles 3D エンジンが完全に統合されているため、ユーザー フレンドリーなインターフェイスで画期的な結果を生み出すことができます。MIDI アフタータッチを使用して 3D 位置を制御し、EG を使用してノートの動きを制御し、LFO を使用してノートの高さを変更し、アルペジオを使用して空間を移動することを検討してください。初めて、空間オーディオはミュージシャンにとってクリエイティブな楽器になり得ます。ステレオに最適で空間的に優れているため、音楽プロデューサー、作曲家、キーボーディスト、DJ、およびライブパフォーマンスで作業しているか、スタジオでアルバムを制作しているかに関係なく、音楽を扱うすべての専門家にとって理想的な選択肢となっています。
主な特長:
- オシレーター: 8 つのオシレーター。それぞれノートごとに 3D 位置があり、素晴らしいサウンドが得られます。
- Spatial: 完全に統合された 3D エンジンで EG、LFO、または移動修飾子を使用して、信じられないほどの空間効果を作成します。
- プリセット: サブプリセットのパワーと柔軟性を備えた、使いやすいプリセット。
- Arpeggiator: アルペジエーターとシーケンサーへの最新のアプローチ。
- 周波数変調: FM 合成を追加して、素晴らしいサウンドを作成します。
- フィルター: 素晴らしい結果を得るために、独立したフィルターを使用した減算合成。
- ピッチ: ピッチ エフェクトを使用して、ユニークなサウンドを作成します。
- エフェクト/ミックス: サウンドを形作るのに役立つミキサーとオーディオ エフェクト。
- Jean-Michel Jarre は、 SkyDust3D を試した最初のアーティストの 1 人で、感銘を受けています。
- 「SkyDust3D はゲーム チェンジャーです。私が長い間待ち望んでいたものです。マルチチャンネルとバイノーラルのサウンドをゼロから作成する最初のシンセサイザーです。没入感のあるサウンドを実現する最初の楽器です。」
SkyDust 3DとSkyDust Stereoの違いについて(どちらを選ぶべきか等)
SkyDust 3DとSkyDust Stereoの2種類が用意されています。SkyDust 3DとSkyDust Stereoの最大の違いは出力のフォーマットの違い。SkyDust Stereoはソフト上でバイノーラルサウンドをステレオで出力します。そのため、5.1chやドルビーアトモスなどのフォーマットでサラウンド出力をすることはできません。SkyDust 3DはStereoに加えてこれらのイマーシブオーディオに対応した出力をすることが可能になっています。そのため、5.1ch等のフォーマットでオーディオをミックスしたい人にとってはSkyDust 3Dは欠かせません。反対にステレオ以外一切使わない人にとってはSkyDust Stereoで十分であるということです。勘違いしやすいのは、チャンネルのフォーマットの問題なので、Stereoだと立体的なサウンドが作れないということではありません。Stereoのフォーマットの中で立体的なサウンドを作るということです。(これは他のStereoベースの3Dオーディオプラグインと同様です。)SkyDust Stereoの場合シンセの中での動作はSkyDust 3Dとほぼ同様で出力するときに2chに出力されます。Stereoから3Dへのアップグレードパスが用意されていないので、必要に応じてどれを選ぶかの選択は結構重要です。
機能紹介
Sound Particles「SkyDust 3D」は独立して空間配置をすることのできる8つのオシレータが搭載されたシンセサイザー。シンセサイザーはトラックのチャンネル数に応じて自動的にチャンネルアウトプットが変化します。2チャンネルのトラックの場合はStereoになります。
プリセットは下記の画面のようにアイコンで表示されています。アイコンでイメージしやすく直感的で親しみがありますね。楽器ジャンルごとに選択することで絞り込むこともできます。若干プルダウンが見づらいかもしれません。オーソドックスな音色も用意されているので出発点としても使えます。また、アルペジオやピッチ、音の動きはそれぞれ プリセットも用意されているので一から作らなければならないということでもないので結構安心です。
またメイン画面となっているので、プリセットとアルペジエータやピッチのモジュレーション、空間の動きをプリセットから選び音をざっくり作るのに適していて、ピッチやアルペジエータのバイパスもできます。
オシレータは8つ用意されており、それぞれ波形を選択して音を作っていきます。下記のようにダイジェストで8つのオシレータをまとめたページも用意されています。
各オシレータは波形の選択からLFO、エンベロープを設定できます。オシレータ8つを全て設定するとなると結構手間はかかりますね。プリセットでまずイメージを探すのも賢いかもしれません。逆に言えばそれだけ作り込めるということでもあります。
これらのオシレータの音は8つのミキサーに独立して出力されます。オシレータが増えてくると空間の中で動き回る音の場合どれがどの音かわからなくなってくるので、ソロやミュートは便利です。
また、Spatialではオシレータごとにアタック時の音の位置と広がり、そして移動するパターン(回転移動、近づく、遠ざかる等進行方向のアイコンで設定できます)や動きのスピードや勢い等を設定した後、音が消える時の動きや消える場所まで細かく設定できます。また、アナライザーにオシレータごとに色分けされた点が動くことで音の挙動を確認することができます。様々なタイプのアナライザーが用意されています。
フィルターやLFOなどのカーブはカーブエディターが用意されているのでポイントを設定することによって任意の波形を線描して使用することもできます。
なんとシーケンスをほぼ際限なく用意出来るだけでなく、シーケンスごとに音だけでなく、コードまで指定できます。シーケンスには鍵盤が用意されており、これは楽譜ベースで考える人にとっても大変使いやすい。また、シーケンスごとに空間位置や広がりまで設定できてしまうという狂った徹底ぶりです。
SkyDust 3D
また、シーケンスごとにフィルターやSpatialといったほとんどのパラメータの値やLFOを設定することまでできてしまうのはまさに可能性が無限ともいえます。このように各種パラメータをシーケンスごとに値を設定することで規則的に変化させることができます。ADD PARAMETERにより、それぞれのセクションのパラメータを呼び出してシーケンスレーンに列として追加していきます。
また、この手の空間系のツールにピッタリなリアルタイムコントロールも充実しており、マクロはもちろんですが、XYパッドも用意されており、リアルタイムで動かすことで即興的なパフォーマンスをすることも可能になっています。サウンドをブレンドしていく操作感はGRM Toolsなどの堅実な電子音響音楽系のプラグインをも思わせます。
まとめ・評価
世界初というだけあって、立体的な音が出るシンセサイザーという範疇を超えた(Lunacy Audio Cubeなども立体的なサウンドが出せるヴァーチャルインストルメントはこれまでリリースされています)いままでにないシンセサイザーです。オシレータごとに空間配置とコントロールが可能という非常に。また、パラメータのモジュレーションにより、空間の音源を自在にコントロールできるというのは空間オーディオに関心のある人にとっては非常に魅力的に映るでしょう。Stereoでも十分空間の動きがリアルでオシレータごとの音像の動きが解像度の高い状態で表現されます。そのため、Stereoシンセとしても十分に他のシンセにはまねできないユニークな空間表現ができます。マルチチャンネルの方が、もちろん細かいディテールが現れるので、恩恵がありますが、2Mixでも十分な空間表現ができています。
負荷についてですが、ステレオは問題なしです。(トラックが増えてくるとオーディオ化しないときついかもしれません。)マルチチャンネルフォーマットについて、環境にもよるかと思いますが(筆者はDAWをReaperで16GB, corei7で試してみました)、5.1ch、7.1ch、11.1.8chくらいまでならあまり気にしなくても問題なく動きました。4次アンビソニックや5次アンビソニックあたりになると、アンビソニックのためのモニタリング用のプラグインを挿していたこともありますが、和音で入力するとディレイ等と併用している場合Particleが増えすぎるからなのか極端に重くなりましたので、スペックによってはまともに動かない可能性もあります。
Sound Particlesは空間オーディオで映画業界をはじめ非常に信頼の厚いメーカーですが、これまでリリースされている空間オーディオ技術をシンセに落とし込んでいるだけでなく、ルーティングによって、限りなく制限がなくサウンドをコントロールすることができるようになっている点は見逃せません。Sound Particlesの製品空間系パンナーなど色々な製品がリリースされていますが、これらの製品のエッセンスが集約されることで極めて汎用性の高いツールが実現したといえるかもしれません。
FMまで用意されており、大変充実していますが、プリセットは用意されていますが自分である程度作れないと本領発揮はできないかと思います。(普通な音色のプリセットも用意されているので出発点として便利です)また、できることが多く、7のオシレータ全てに独立した設定ができる分、じっくり作り込むことを想定されています。そのため、なんとなくわかるとは思いますが、とりあえず立ち上げてみるといった手軽に即戦力の音を使うシンセではありません。ルーティングが少し手間を感じる人もいるかもしれません。劇伴、アンダースコアやシネマティックなどがまず想定されているかと思いますが、サウンドデザインや電子音楽、アンビエントやトランスなど広い空間のダンスミュージックなどのジャンルでも使いたくなる完成度の高いシンセサイザーだと思います。シネマティックだけでなくベースやキー、ブラス等、所謂楽曲に使用する音色も一通りそろっているので、たとえばポストロック等に使用しても面白いかもしれませんね。
通常のシンセ以上に機能が拡張されているので、ある程度標準的なシンセを使ってきた人にとっては大きなインパクトを受ける人が多いことは間違いないでしょう。