Tone Empire「LVL-01」レビュー(AIベースのGates Sta-Level Compressorエミュレーション・他製品との比較など)
海外を中心に話題になっているので導入してみました。
メーカー情報
LVL-01 は、世界初のリアルタイム機械学習 / AI ベースのオーディオ コンプレッサー プラグインであり、カスタマイズされたアナログ ゲート sta レベル コンプレッサーのエミュレーションです。それは何をするためのものか?このプラグインは、サチュレーションを高め、コンプレッションを目立たなくするように設計されており、ドラム、ループ、ブレイクビーツ、ベース、ギター/シンセに最適です。このプラグインは、6 回のリカバリ時間、ドライブ/コンプレッサー コントロール、および完全にスケーラブルな GUI を提供します。
特徴
- 機械学習によってサンプリングされた実際のユニークなカスタム コンプレッサー。
- 低速から高速までの 6 回の回復時間。
- ドライブ/圧縮特性 - Vari-Mu スタイル (6386 チューブ)
- 出力ゲイン トリム コントロール。
- ウェット/ドライシグナルミックスのミックスコントロール。
- 完全にサイズ変更可能な GUI インターフェイス。
- プロフェッショナルなプリセットのセットが付属しています。
- オートゲイン補正内蔵。
引用元:LVL-01
Gates Sta-Level Compressorについて
Tone Empire「LVL-01」のモデルとなったのはGates Sta-Level Compressor。オールチューブ回路の「Vari-Mu」タイプのコンプレッサーです。
1950年代の発売当時は放送用として使用されていたようで、音楽制作に輸入されたもの。オリジナルは40dBのリダクションまでほぼ歪むことなくコンプレッションを行うことが可能であり、心地の良いナチュラルなレベルコントロールを行うことができるため重宝されていました。ミリタリーないかついデザイン。
Tone Empire「LVL-01」でエミュレートされているのはオリジナルのSTA-LEVELでも使用されていた6386真空管を使用しているカスタムモデルとのこと。オリジナルはシングル/ダブルモード用の2つの大きなノブと1つのスイッチとなっていたのに対し、リカバリータイム等発売時モデルよりも追加の機能が加えられている点もポイント。
現代の音楽制作現場では機能が少ないオリジナルに対し柔軟な処理ができるよう手を加えているユーザーもいたようですね。(現在でも「RETRO Sta-Level」等数々の拡張された復刻版の後続が出ているようですね。)
機能紹介
UIは恐ろしいほどシンプル。ウェットドライのミックスとアウトプットを除けばノブは2つ。インプットとリカバリー。
Vari Mu系の真空管コンプレッサーの特徴でもある典型的なコンプレッサーの副作用を最小限に抑えながら、密度と一貫性を生み出し、がっつりかけてもコンプの潰れを感じさせないように設計されています。潰してもべこっと凹むのではなくスムーズになだらかになりそれでいて音の粒立ちはしっかり生きています。
Driveで閾値に充ててコンプレッションを作動させるスタイルになっています。
リカバリーはリリースタイム。6段階と多くの復刻モデル同様の設計ですが、目盛りが少ないだけに値が大きく動くためリリースタイムをがっつり速くすると結構歪みます。この時の歪みはチリチリ系のサチュレーションですかね。
アナログ特性としてはがっつり真空管系の温かみのあるテイストが包み込む感触。インプットを上げてあげると例えば、Vari Muコンプで定評のあるManley StereoVariable Mu Limiter Compressorのエミュレーションプラグイン、Pulsar Audio「Mu」よりもさらにがっつり暖かくなります。音像に関してもより変化が大きいといえるでしょう。抜けが良いのに決してコンプでおなじみバキバキ感がなく上品なテイストになります。粒が細かいというよりはふんわりと温かみががっつり加わるタイプです。ボーカルにも適性ありでしょうね。ロックというよりはポップスやジャジーなスタイル向けですかね。レコードで聴く雰囲気。そのため、ハウス等にも良さそうかもしれません。
コンプレッションを感じさせないような実機の特徴が上手く再現されており、アナログコンプレッサー通した時の余韻というのでしょうか、本来潰れてくる代わりにそれを感じさせます。トランジェントはもちろん不明瞭になることもなくしっかり主張します。大分音の性格が変わるので音楽的でしょうか。楽器の使用とりわけギターやドラムにかけたいですね。倍音が加わりキックの音像が膨らむなど。アコースティックギター等は特に最適解のひとつではないでしょうか。音を音を前に出してもいわゆるコンプ臭さがなくナチュラルなので非常にマッチします。アコースティック系やオーガニック系に良さそうですね。
評価
世界初のリアルタイムAIモデリングということで、コンプがかかった後の響きの再現がかなりのものになっています。(その分やや負荷はかかるようです。)量産型(?)アナログエミュレーションでありがちな安っぽさは全く感じないですね。深みといいますか、実機のアナログコンプレッサーかけるとこんな音になるよね、というアナログらしさがしっかり加わります。音像も深みと広がりをもって(質量が増えるといったところでしょうか)存在感を増して前に出てくる感触があります。バキッと音の輪郭がシャープになり前に出てくるタイプとは対極にあります。サチュレーションプラグインとは異なりコンプの挙動×サチュレーションが連動しているのでそうした特性をリアルタイムでエミュレートしているというのはサチュレーションプラグインにはない独特の感触が加わります。
ファクトリープリセットは用途によってネーミングされているわけでもなく正直なところやや不親切。ないよりは、といったところでしょうか。
使用法としてはやはり細かいことをするというよりもトラックやミックス全体の方向性を決めてあげるのに役立ちそうです。そのため、使用法としてはマクロな視点でも使用となります。パラメータが少ないのでアナログ系を使ってみたいけれどもという人にとっては意外に使いやすいと思いますね。(もちろん耳は必要ですが、どこいじるのか迷うといったことはないのでその意味ではわかりやすいという)
総じていうと音楽的な音色や味付けが欲しいという人に特におすすめできるコンプレッサーです。レベル調整というよりはむしろ音色を作っていくエフェクトプラグイン。バキッとさせるタイプではないのでバラード系やジャズやLofi系にも合いそう。前段にレベリング目的のコンプをかけ(実機同様細かい調整機能はないので少なくとも細かなレベリングが必要な場合に使用するコンプレッサーではないと思うので)その後にうっすらかけるといった使い方も十分考えられますね。
総じて少なくともこの価格以上のパフォーマンスをすることは確かでしょうね。
同じVari MuコンプレッサーカテゴリーのPulsar Audio「Mu」が好きな人はおそらく気に入るはずです。どちらかというとLVL-01はTone Empire「LVL-01」はトラックにさして積極的に味付けをするタイプかと思います。